「夏の足音、続編」


あの恐怖より数ヶ月がたった。もう夏も終り半袖では肌寒い季節となっていた。

我々は何事も無かったかのように日常を送っている。が、心の中では気になっていた・・・例の足音が。

深夜に移動手段も持たずあんな山奥に人など・・・いくら有名な心霊スポットとはいえそれは有り得ない。

もう一度あの廃ホテルに行ってみるか、私はそう思い出していた。時間があの時の恐怖心を和らげたのであろう。

相棒にそのことを話すと「まあ、いいだろう」とあっさりした返事が返ってきた。相棒もそのようだ。

こうして季節外れの心霊スポットに向かう事になる。


とある土曜の深夜、例の国道を走る。そしてトンネルが見えて来た。言わずもがな、廃ホテルはこの先の廃道にある。

トンネルを抜けると同時に2人の会話は止まった。闇で支配された道を進む。すると当たり前のようにホテルが姿を現した。

とっさに相棒の顔を覗く、彼もまた私の顔を見ていた。どうやら同じ心境のようだ。


車を降りあたりを見渡す、先客は居ないようだ。季節外れだが有名な場所だ、2人とも誰かが居る事に期待していたのだ。

無言でホテル入り口に向かう。前回撤収した場所に辿り着くと彼は我々を見下すかのように立ちはだかっていた。





唾を飲み何も起こらない事を願うかのように耳を傾ける。しかし物音はしなかった。ただただ風が草木を揺らす音だけが聞こえてくる。

入り口正面まで来るとホテルを見上げてみた。





客室の窓と思われるものが見える。もし誰がが覗いていたら・・・、そう心に過ぎってしまう。

この時人間とは弱い生き物だと思い知らされた。

人は不安な気持ちが少しでもあると意味も無くマイナスな連想を抱いてしまいがちだ。病は気から、とはよく言ったものだ。

普段通りならそんなことは思わないのに。

内部に入ると思ったよりも破壊されている。まずは一階を見て回る。壁が無くフロントや客室といった区別がなくなっていた。

非常階段で二階へ上がる。が二階フロアへの入り口は非常扉で硬く閉ざされていた。


「前回の非常扉の閉まる音はこれか・・・」

「らしいな・・・」


2人は納得するように会話し更に上に行く。が、同じく非常扉が硬く閉ざされていた。試しに押してみるがびくともしない。

最上階のみ非常扉が開け放たれていた。と言うよりも非常扉自体が撤去されていた。

最上階も一回と同じく壁が無く一つのホールみたいな感じになっていた。

慣れの為であろうか、私の緊張感はかなり薄らいでいた。それは相棒も同じらしい。と次の瞬間相棒が私の腕を掴みこういった。


「死ぬつもりか!!」


私は我に帰り相棒の目線の方へと目を向けた。そこにはおぞましい光景があった。





一階へと瞬時にワープ出来るであろう穴がそこにある。

階段を撤去しただの空洞になっているようだ。もし相棒が声を掛けてくれなかったら・・・。

私は緊張の糸が切れたが如く来た道へ急いで戻る。もちろん脱出する為だ。

相棒もその空気を読み取ったらしく無言で私の後に続く。そして無事に外に出ることが出来た。


「すまんかったな・・・」

「いや・・・」


私は遅くなった礼を言った。2人の間に無事に出れたと言う安堵の空気が流れる。

だがそんな私の心の中に一つの疑問が浮かび上がっていた。そう、非常扉である。

全ての非常扉が硬く閉ざされていたのだ。では前回聞いた非常扉の音は何だったのだろうか?どこかにまだ非常扉があるのだろうか・・・。

しかしもう一度確めに行くという選択肢は無い。

これは私の心の中にだけ止めとおく事にした。相棒に入らぬ不安を与えぬ為にも。