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 山頂の洞窟
 
 
 つい最近の事だ。2010年夏の猛暑の中、奈良県の十津川村にツーリングに行った帰り県道を走っていた。
 
 とある温泉街に行くためだ。予定ではそこで温泉でも浸かろうと思っていたのだ。
 
 その温泉街はとても良い雰囲気でまさに私好みであったが、夜も遅かった為か日帰りで温泉に入れる所は無かった。
 
 仕方ないので温泉は諦めそのまま帰路に着く事に。
 
 走って来た県道をそのまま進むとなかなかのワインディングであったが徐々に道が怪しくなってくる。
 
 もはやこのような道には慣れっこの管理人。この後すぐに林道のような狭い獣道になる事は容易に想像できた。
 
 別にそんな道くらい走りなれているし、県道を引き返して国道に出るには時間が掛かり過ぎる。
 
 もう夜も遅いので時間もあまり掛けたくないのでそのまま進む事にした。
 
 案の定道は急に狭くなり獣道になっていった。入り口には「この先狭路、Uターンして国道へ」と言う看板があった。
 
 確かに車では走りにくい道。ましてやすれ違いなど不可能。だからといってブラックバードで走るような道でもないが。
 
 
 
  
 
 道とは言えない道をどんどん進みやがて山頂付近に差し掛かる。
 
 こんな道のお決まりパターンとしては、酷道の急坂を果てしなく登り山頂で汚く狭いトンネルを抜けてそこから急勾配を下って行くのだ。
 
 思った通り急坂を登りきるとトンネルがあった。
 
 が、最初は暗くてよく分からなかったがヘッドライトが照らすトンネルをよく見てみると・・・
 
 とてもトンネルというにはあまりにもお粗末な洞窟のような洞穴のようなトンネルがあった。
 
 田舎のマイナー県道には比較的多い手彫りのようなトンネル。洞窟と読んでも良い位のトンネルなど無数にある。
 
 しかしこれほど無機質と言うべきか・・・洞窟らしいトンネルは初めてだ。
 
 辺りが暗いというのもそう見える原因の一つかもしれない。
 
 
 
    
 
 進入してみるとやたらと天井が低い。その為ブラックバードの排気音が響き渡る。
 
 交通量がほとんどないせいか路面は荒れ果てており水浸しで、しかも狭い上に真っ直ぐではないのだ。
 
 カーブと言うほど曲がってもいない。言うなら歪な直線と言うべきが?
 
 
 「岩が硬くて真っ直ぐ掘れなかったのだろうか・・・」
 
 
 そんなどうでもいい事を考えながら進んで行く。思ったよりも距離が長い。しばらく進むと出口に差し掛かる。
 
 何故か少しだけホッとしてこのトンネルを出ようとした時ある物が出口付近にあることに気が付く。
 
 思わず声を上げてしまう。そこに人のような物体が見えたのだ。
 
 言わずもがな、こんなトンネルに電灯など無い。明かりと言えば愛車のヘッドライトのみ。
 
 そのヘッドライトの中に一瞬だが人のような物体が入って来たのだ。トンネルを抜けしばらく進んだ所で停まる。
 
 
 「さっきのは何だったんだ・・・?」
 
 
 誰かに問いかけるように呟く。この狭さだ、Uターンは出来ない。戻るのならバイクを置いて真っ暗な闇の中を徒歩だ。
 
 徒歩で戻っている間に対向車が来るとも限らない。戻るにはそれなりのリスクを抱え込む必要があった。
 
 もし本当に人なら何かトラブルにあっている可能性が高い。本来ならすぐにでも助けるべきだ。
 
 だが、そうでなければ・・・まともな精神の持ち主ではない。何しろこんな時間にこんな場所だ。
 
 バイクだからここまで来るのに20分程度であったが歩きとなるとそうもいかない。
 
 ここに来るにはかなりの勾配を1時間以上は登って来なければならない。
 
 軽トラを林に入った所に停めておくなどしてこの山の持ち主、もしくは管理人が様子を見に来たとも考えられるが。
 
 様々な思考が流れるが結論は、このまま山を降りるであった。
 
 確かにあの物体が人であれば見捨てる事になるが、こちらにもそれ相応のリスクがある。ここは仕方ないだろう。
 
 少し煮え切らない思いがあるがバイクを発進させた。相変わらずガタガタ道が続く。
 
 路面は山頂よりこちら側の方が荒れている。見えない恐怖心がよりそうさせているのかもしれない。
 
 すると急に何かが前方から降りかかって来た。そしてそれが左胸から肩にかけてぶつかる。
 
 
 「うわぁっっっ!!」
 
 
 それなりの衝撃と突然の事でメットの中でおもいっきり叫んでしまった。
 
 その瞬間バイクがコントロール不能になるが何とか持ち直す。
 
 大きい木の枝があまりにもタイミング良く落ちて来たのだ(この場合だとタイミング悪くといった方が妥当かな)
 
 落ちて来たと言っても単に上から下にではなく、振り子のように前方から私目掛けて降って来たのだ。
 
 何しろ何の前触れも無く急に闇の中から木の枝が襲い掛かってきたのだから。しかも管理人を狙ったかのように・・・。
 
 あんな事の後なのでさすがに驚いたがすぐに心を落ち着かせて麓の村へと向かった。
 
 先ほどの例の物体が関係していない事を祈りつつ。
 
 
 
    
 
  
 
          
 
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